【インタビュー】 「榊原商店」と「天竜T.S.ドライシステム共同組合」を継ぐ榊原康久さん

【インタビュー】 「榊原商店」と「天竜T.S.ドライシステム共同組合」を継ぐ榊原康久さん

取材 : 鄭美羅(チョンミラ)

<榊原正三さんの思いを継いで>

天竜の木の普及のために幅広い活動をしてきた榊原正三(さかきばら・まさみ)さんの後を継いで「榊原商店」代表と「天竜T.S.ドライシステム共同組合」の理事を務めている榊原康久(さかきばら・やすひさ)さん。

静岡県浜松市天竜区にある榊原商店は、約45年前、お父さんの榊原正三さんが森林組合から独立して創業した事業で、伐採から搬出までを担当している。また、天竜T.S.ドライシステム(協)は共同組合として2007年に設立され、その搬出材を加工・販売している。製材所を持っているのも特徴である。

榊原商店と天竜T.S.ドライシステム(協)は、日本の三大人工美林である静岡県天竜地域の国産木材の利用と、日本の昔ながらの葉枯らし天然乾燥及び月齢伐採にこだわっていた榊原正三さんの思いを継いで、①天竜地域以外の木は扱わない、②枝葉から水分を飛ばす「葉枯らし」を3ヶ月以上行う、③製品は天然乾燥させる、④月齢伐採法に従った伐採を行う、⑤伐採時期を明確にする履歴管理を一本一本に行う、この五つを基本方針として守っている。

榊原商店と天竜T.S.ドライシステム(協)の特徴

榊原商店と天竜T.S.ドライシステム(協)が提供する木材の特徴は大きく三つ挙げられる。

一つ目は、葉枯らし天然乾燥の木材を扱うこと。葉枯らし天然乾燥はもっとも歴史のある天然乾燥方法で、伐採した木を葉がついたまま3ヶ月以上山に寝かせて乾燥させることを言い、それを天然乾燥させるには半年から1年以上がかかる。一般的に機械乾燥で強制的に木を乾燥させ、伐採から約10日で木材として出荷されることに比べると、時間も手間もかかって採算が厳しいが、それにも関わらず榊原商店と天竜T.S.ドライシステム(協)がこの方法を守っている重要な理由がある。それは、葉枯らしを行うことで含水率が下がり、木が軽くなって運搬コストやCO2削減のメリットがあるからだけではなく、何よりも、葉枯らし天然乾燥を行った木は、フェノール成分が守られ、色・ツヤ・香りが良く、カビや腐りに強い、「木の良さをそのまま持つ丈夫で長持ちする木材」になるからである。
二つ目は、月齢伐採を守っていること。榊原商店では、月の満ち欠けという自然が刻むリズムに合わせて伐採の時期を新月に向かう期間に限って行う月齢伐採にこだわっている。伐採の最適な時期は、木の成長が止まる8月以後から2月の間でしか行わない。春から夏にかけては、木の中の養分が多くて虫やカビが付きやすいが、この時期に伐採すると虫やカビが付きにくい木材になるからである。月齢伐採は日本の昔ながらの伐採方法だが、ある時期から消えてしまった方法を改めて復活させたのが榊原正三さんである。
三つ目は、全ての木材に伐採の日時、場所、人、葉枯らし期間をバーコードで管理して、伐採から製材までのログをエンドユーザーにも分かるように明確にしていること。これは、他の地域で伐っても天竜で売ると天竜の木になる流通の問題に対して、お客さんにどこで伐られた木なのかの情報を提供するためである。

木の良さをいかに多くの人にどう伝えるかを悩む日々

榊原康久さんが見てきたお父さんの榊原正三さんは「木の良さをどう人に伝えるかを考える人」だった。彼がお父さんの仕事を手伝いはじめたのは2006年頃からである。東京で専門学校を出て、最初は伐採事業を継ぐというより、お父さんの仕事を手伝う感覚で地元に戻ってきたと言う。子供の頃から見ていたので、当時は天竜の木や月齢伐採、葉枯らし天然乾燥が特別なものだという感覚もなかった。
しかし、お父さんの事業を手伝っていた十数年間、徐々に考え方が変わった。お父さんがやってきたことがどれだけ特別なことで、大事なことなのかが理解できた。普通の伐採や木材販売会社だったら継がなかったとまで思っている。お父さんが亡くなって2年になる今、彼はお父さんと同じく「木の良さをいかに多くのエンドユーザーに伝えるか」を考えている。
その間、長いお付き合いになったお客さんとは仕事としてではなく、人としての繋がりも大事にしたいと思っている。「自分で経験してみろ!」とよく言っていたお父さんの言葉通り、月齢伐採や葉枯らし天然乾燥の良さを自ら体験して、お客さんにもできれば良い可能性を提案して行きたいと語る榊原康久さん。お父さんが亡くなった今は、もっとこの仕事を続けていく必要があると感じている。
月齢伐採や葉枯らし天然乾燥の良さを広めるのもその一つの思いである。彼が会社を手伝いながらホームページを作っていた約12~13年前は、月齢伐採や葉枯らし天然乾燥を検索するとまったく出てこなかったと言う。その間、仲間が増え、お客さんが増え、当時に比べると確かに広まっていると実感している。しかし、まだ日本全体の木造建築の中で、葉枯らし天然乾燥の木を使った比率は1%にも満たないのが現状である。
彼は、木に関わる仕事をする人だけではなく、エンドユーザーにもその良さを伝えるのが今の一番の課題だと思っている。年に2回ほどの伐採体験や見学ツアーを提供しているのもその一環である。「知らないことに対して、どうアプローチできるか」、その方法を悩んでいる最近。伐採がメインの仕事の事業で、伐採しなくていいと言われて入ってきたが、彼は今、彼なりの方法を探し続けている。