【セミナーレポート】 木暮人連続セミナー:森と木が育む健やかな暮らし 第4回 人にやさしい木材・素材の話 自然の力「杉の空気浄化作用」

第4回 人にやさしい木材・素材の話 自然の力「杉の空気浄化作用」
講演:ホームアイ 代表、藤田佐枝子さん

2017年8月26日(土)

ホームアイ 代表、藤田佐枝子さん

この10年ほど、京都大学を中心に、杉には、調湿作用や空気を浄化したり、
空気中に健康に有効な成分を放出するといった効果があるとの、画期的な研究結果が発表されている。
この杉の様々な効果を立証することに大きな役割を果たしたのが杉木口スリット材である。
杉木口スリット材は、杉の板目材にスリット加工を施したもので、仮導管の露出面積が増加する。
この仮導管が、二酸化窒素やホルムアルデヒドを吸着し、空気中の有害物質の含有率を軽減させる事ができるという。
この杉木口スリット材の発明者であり、開発の中心的な役割を果たしたのが藤田佐枝子さんだ。

藤田さんは奈良女子大学卒業後、大手ハウスメーカーに勤務。
インテリアコーディネーター、二級建築士、森林インストラクターなど多くの資格を持つ。
06年から、京都大学生存研究所、大阪府環境農林水産総合研究所とともに、
産官学プロジェクト「杉の高機能開発研究会」を発足させる。
杉の研究と広報活動に情熱を注ぎ、全国を駆け回っている。
藤田さんが、どのように杉と向かい合い、杉木口スリット材を開発し、京都大学などの研究に貢献していったのか、
藤田さんの杉、そして健康に対しての熱い思いに感銘した講演会だった。

〈シックハウスの体験から国産材での健康住宅の可能性を〉

藤田さんは、かつて念願の家を建てたとき、めまいや頭痛などのシックハウス症候群に苦しんだ。
その後、子宮筋腫がわかり、心臓が圧迫され皮膚呼吸もできないほどの苦しみも受けた。
翌年には乳がんがステージ3だと宣告されて、その後の生き方や人生について深く考えた。
藤田さんは、
「抗がん剤を投与せず、寿命まで元気に活動するという選択をしました、
その時に残りの人生では人の役に立つ仕事がしたいと思ったんです。」
そう強い言葉で語り始めた。
藤田さんは、奇跡の人だ。乳がんのあと、脳梗塞で3度も倒れた。
それでも、社会の役に立ちたいと元気に活動を続けている。
藤田さんは、シックハウスが病気を作る、国産材が病気を癒すということを身体で感じていた。
乳がんで痛みがマックスに達した時、杉の床材に水をまき、その上で転げ回ることで、痛みが和らいだという体験を持ち、
そこから、国産材・杉が健康を作るという確信を持った。

「安全な家、身体によい家づくりにかかわっていこうと考えたものの、
当時は、木といえば「イチョウとヤナギぐらいしか分かりませんでした(笑)」
という藤田さん。
まずは杉、ヒノキの勉強から始め、多くのリフォーム現場の成果から、徐々に杉は大きな力をもっているのではないかと感じ始めたという。
そして、京都大学や大阪府との共同研究が始まると、その直感が科学的根拠を持ち始めた。
「杉は杉でも、吉野の杉と九州の杉は、放出する成分が異なるということが実験上でも明らかになりました。
樹齢や、低温乾燥か高温乾燥かによっても成分は変わってきますし、
杉ならどれでも同じ効果を期待できるというわけでもないんですね。
今後もっと研究を進めて、どの産地の木であっても、加工や乾燥方法、部位による効果的な使い方ができる方法を見つけたい。」

〈杉とひのき〉

藤田さんは、体に良い国産材を求めているうちに、木によってその持つ特性が違うということがわかってきた。
たとえば、杉は、気持ちを落ち着かせる、頭がすっきり冴えわたるとか、身体にやさしいとか、良い空気をつくるなどの特性があるのではないか。
一方、ヒノキの場合は、気分が明るくなる、元気が出る、いい香りがする、おしゃれな雰囲気があるなどの特性がありそうだ。
藤田さんは、健康な家づくりを目指したから、杉に着目した。
「杉は、幹の中に仮導管が通っています。
仮道管は水分や養分を根から吸い上げていく役割をもつのですが、
空気中の二酸化窒素やホルムアルデヒドなどの有害物質を吸収する作用があることもわかってきました」
杉の調湿能力は、どの国産材よりも高く、この調湿能力の高さがいま、注目されているのだという。
また、杉のもつこんなエピソードも紹介してくれた。
「奈良の正倉院には天平時代を中心にした多数の宝物が非常に保存状態の良いままで今にまで伝わっています。
じつは正倉院の建物はヒノキでつくられているのですが、宝物を入れていた箱(唐櫃)は杉。
宝物が美しく保存できたのは、宝物を劣化させるオゾンや二酸化窒素などの物質を杉の木が吸着したからではないかと考えられているんですよ。」

〈杉木口スリットの開発〉

藤田さんは、健康住宅を作るために、まず、勉強、そして情報収集を行った。
1999年、志を同じくする関西の女性建築士たちと「木の会」をつくった。
シックハウス問題が世間を騒がし、健康住宅への意識が高まり始めた頃、
「少しでも多くの人が健やかに暮らせる空間を提供したい、
国産の木材を使うことで山の元気を取り戻したい。」
そういう志で集まった女性建築士たちだ。
2007年には、NPO法人となり現在も積極的な活動が続いている。
この地道な活動の中で、「杉木口スリット材の発想」が生まれた。
2006年、京都大学生存圏研究所所長の川井教授と打ち合わせの前日、
たまたま、日本最古の植林である清光林業所有の山中に入った。
その時、杉の大きな木口を触り、「ざらざらなのにつるつる」という不思議な感触を得た。
ここに、杉の健康効用の秘密があるのではないか?
そう感じた藤田さんは、川井教授との打ち合わせの時にその思いを話した。
すると、川井教授も同じ思いで感激したという。
この二人の会話から、杉木口スリット材の着想が生まれ、
京都大学と大阪府、藤田さんとの共同作業で、杉木口スリット材の研究が進んでいったのだ。

〈杉木口スリット材について〉

藤田さんが、杉木口スリット材で目標としたのは、「室内で森林浴をつくる。」ということだ。
きれいな空気・心身に良い空気を作る。
とくに、子供たちを守るため、子供たちの能力を向上させる空間づくりを杉木口スリット材でできるのではないかと考えた。
2008年、アメリカ環境庁は、室内空気質は、こどもの集中力、計算力、記憶力に影響を与えると発表している。
杉木口スリット材には、脳の活性化、免疫力アップ、リラックスの効果があるということが、京都大学との研究の中でわかってきた。

〈木を選ぶこと〉

藤田さんは、木の素材の大事さについても語った。
杉は様々な身体の健康に効果的だということがわかってきた。
しかし、杉であればなんでもいい、どこのものでもいいというわけではない。
杉の産地、樹齢、部位などにより効果は全然違う。
トレーサビリティの確認が必要だとわかった。
加えて、乾燥方法も。
天然乾燥と人工乾燥の違い。その乾燥温度での違い。
低温乾燥でも、その乾燥方法での違い。
加工方法、管理状態でも違う。
そういう杉の素性や加工方法によってもその持つパワーは変わるのだ。

〈杉木口スリット材を使う〉

森林浴の効果を自室で実現するべく、化学物質を加えるのではなく自然のもつ力でよい環境をつくりだすサポートがしたい!
藤田さんは語る。
「一番のモチベーションは、子どもたちに明るく元気になってほしいということですね。
残念ながら日本では空気質が子どもに与える影響というものに関心が低い。
規制されている物質も諸外国と比べると極端に少ないんですね。
だからこそ、空気をきれいにする空間づくりを提案して、子どもたちを取り囲む環境を改善していけたら。」
藤田さんは、杉木口スリット材を、子供部屋、そして寝室から使ってほしいという。
子供を守らないとという強い使命感がその何気ない言葉からあふれている。
たとえば、藤田さんのもとに、発達障害のお子さんを抱えるご両親が相談に訪れる。
発達障害の重度の子供は、杉木口スリット材環境の中で静かになるという。
そんな事例を話すとき、藤田さんの子供を守るという熱い思いを感じる。

〈杉の抗がん作用 新発見〉

最後に藤田さんより驚きの報告があった。
それは、京都大学の宮越教授、川井教授他の共同研究によるもので、
「杉の抽出成分がガンの治療に効果があるかもしれない」という画期的な内容だ。
京大の医農融合共同研究結果が、「スギ抽出物による熱ショックタンパク発現誘導の抑制効果」
というタイトルで日本薬学会誌に掲載された。(この論文は、早期掲載としてwebにて発表された。正式掲載は来年となる。)
藤田さんは、
「学術論文なので、詳細についての説明は、別の機会にいたしますが、
杉が健康に大きな良い影響を与えるとの発表はおそらく世界で初めてのことです。
これから、医学界も杉の研究を進めてくれると期待してます。」
と言葉を選びながら力強く話された。
藤田さんが長年、確信を持ち続けていたこと「杉は健康を作る。」ということが、
農学界、医学界で一気に立証されていくのではと期待される。

藤田さんは、健康な住まいを作る、化学物質から健康を守る、そして子供たちを守る、
その一念で精力的に活動を続けている。
相手が大学教授であろうがお役所のトップであろうが気にもかけないという。
人生をかけて、これからも頑張っていくという熱い思いに大いに感動した2時間だった。