【セミナーレポート】木暮人連続セミナー:森と木が育む健やかな暮らし 第6回 森と杉と微生物の素敵な関係:腸内環境だけではない。住環境の微生物が大切。

第6回 森と杉と微生物の素敵な関係:腸内環境だけではない。住環境の微生物が大切。
講演:リフォームラボ(株)天音堂 代表 上利 智子さん

2017年10月26日(土)

20代は経営コンサルタント、30代は海外で勉強、40代はIT系企業のコンサルなどを履歴、そして40代半ばで起業。
ご両親のリフォームを通じて、客の立場に立った家づくりを思い立つという異色の経歴をもつ上利さんは、施主の立場に立ち、
職人も山も皆が幸せになる住宅建築で、多くの方から喜ばれている。
上利さんは、自然素材を使った家づくりということにとどまらない。
自然と共生する家づくりを提案し、昔は当たり前にあった、自然と共にあるくらしを取り戻すことをコンセプトとしている。。
つまり、森の環境にある家づくりを目指しているのである。森と暮らす、それは微生物と暮らすということでもある。
上利さんは、ご自身の経験を踏まえ、くらしの中で微生物と共生することの大事さを熱く語った。

工業製品、化学物質に囲まれた現代の日本の社会、その結果として自然環境から遠のいていく環境。
それが、わたしたちの健康、そしてこころの健康に悪影響を与えているのではないか、そういうことを考えさせられるいい機会となった。

〈建材探しの旅 そして榊原さんに出会う,そして3.11〉

2004年起業し、自然素材の建材を探す旅に出る。
木材やしっくい、そして珪藻土など、日本古来のものを再発見していく。
その中で、2008年、静岡県天竜の榊原正三さんと出会い、月齢伐採・葉枯らし・天然乾燥などを知り、
身体に触れる床材から少しずつ天然乾燥の木材を使っていった。  そして、これからというとき、2011年3.11が起きた。
自然素材の良さを求めていたが、原発事故で国産に対して絶望と不安がやってきた。放射能から逃げられるのか?
そんななか、秋月辰一郎医師のことを知った。
聖フランシスコ病院の秋月辰一郎医師は、長崎の原爆投下直後から、献身的に被災者の救護・治療に活躍された方だ。
秋月医師は、玄米と味噌のチカラで被爆者を救済していったという。

現代社会は放射能ばかりでなく、様々なもので汚染されている。
逃げることなどはできない。打ち克つしかないと。
化学物質・ストレス・人間関係などさまざまなものが健康を脅かす社会で、健康であるためには、ケミカルを遠ざけ、自然のもの。免疫抵抗力を付けてくれる、発酵・微生物が大切であると確信をした。

〈発酵食品と杉〉

酒、かつおぶし、醤油、味噌、みりん、酢、等の調味料をはじめ、納豆や漬物など日本の伝統食は、ほとんどが発酵食品と言ってもいいかもしれない。
四季と高温多湿の豊かな自然、森林環境こそが、奇跡の国「日本」を育て、そして、伝統食・発酵食品と杉とは深い関係があることも、先人はとうの昔に知っていたのだ。
味噌も醤油も昔は杉を使った樽で仕込み、その樽を置く蔵の柱・梁は杉材を使っている。そこに蔵付き麹が住みつく。だから、「杉は発酵食品のゆりかご」ではないかと考えた。
パンを様々な環境に置いた場合のパンのカビ実験というのが、民間で流行っているが、上利さんの実験では、天然乾燥の杉をいれたパンは腐敗ではなく、醗酵の方に進む一方、桧はカビが生えてしまうという結果が得られている。
微生物にとって良い環境は、ヒトにとってもいい環境のはずで、しかも、杉には、調湿、殺菌、リラックス、安眠効果があるという。特に良質の睡眠は自然治癒力を上げることに繋がるはず。
自然に近い月齢伐採、葉枯らし、天然乾燥の杉は住環境には最適に違いないと考えている。
だからこそ、身近なところから、杉材のものを身の回りに置いたり、内装材を杉にすることをお勧めしている。

先人はとうの昔から杉の良さをよく知っていたが、現代の林業関係の研究者により杉の防虫効果や調湿・空気浄化性能・鎮静弛緩効果等が科学的に解明されてきていて、杉の活用がますます、科学的な裏付けで加速すると思う。

〈微生物と森〉

上利さんは、微生物の事を考えていたら、微生物を大切にする人たちのことが気になり始めた。そうすると自然と折り合った「なりわい」をしている人たちがいることに気づいた。自然農法の栽培家は、「土壌微生物の豊かさが命」そして、「落ち葉に勝る堆肥はなし。」と多くの栽培家が完熟した落ち葉堆肥を大事に使っている。これも微生物に力である。
天然酵母のパン職人も、森に囲まれた微生物が元気なところで良いパンができるという。
白神山地や高尾の森から採れる天然酵母のパンが人気を集めているが、森というのは、微生物天国ということなのだと思う。

そして、森というと少し遠い存在であるが、実は様々な森がある。
原生林、人工林、里山、鎮守の森、だれからも水や肥料をもらわずとも、太陽ときれいな空気でたくましく生きていける場所であれば、どこも、私たちの森なのだ。
都会の中でさえ、森のような環境の中で生きることはできる。盆栽でも、化学肥料や農薬を使わなければ、豊かな微生物がいる小さな森に違いない。
つまり、微生物の住む空間が森であると言えるし、そういう森がたくさんあればいいと思う。
工業物質、化学物質だらけの都会だからこそ、ささやかでも小さな森が必要と思う。

〈ジェシカ・グリーンのこと〉

ジェシカ・グリーンさんは、アメリカオレゴン大学の微生物学者で、建築設計に森の微生物環境を取り入れることが健康に大きく寄与するということを提言している。

環境設計つまり空気質設計という考え方が、これからは必要になってくると思う。
空気は無色透明だから質がわかりづらい。 だからと言っておろそかにしてはいけない。
窓を閉め切ることなく、外の新鮮な空気を取り入れることの方がずっと、身体には良いはずである。

そして、空気は見えないからこそ、自分の皮膚感覚・五感で感じるチカラが大切なのだ。
露天風呂の気持ちよさ、
海の潮風の心地よさ、
エアコンのいらない夏の終わり
緑を抜ける風を感じる。
エビデンスはなくても、そういう心地良い環境の中にいることが何より体と心には必要なものだと思う。

〈雑誌チルチンびとの記事について〉

チルチンびとという雑誌で、上利さんの家の一年を通して四季を取り上げてくれた。

上利さんの自然に対する思いが語られている。

「庭が語る生きる知恵」
・一つずつ、少しずつ、花が咲いている。だから毎日見ていても飽きない。
・もともと強い植物なんていない。その土地に順応してだんだん強くなる。
・種が風に飛ばされて、自然と目を出し、育ってる。うちには、「野良」がたくさんいる。
肥料をあげると虫は余計に寄ってくる。
・長年木を眺めていると気づく。葉が落ちて芽が出るのではない。芽が葉を落とすのだ。
・花、実、香り、枝、梅の木は1年を通して愉しませてくれる。

〈森をお手本にすること〉

森という環境にならうことが、健やかな暮らしを取り戻すことになるのではないだろうか。
森は、誰かから何かを与えられているわけでもなく、あんなに生き生きとしている。
私たちは、化学物質に囲まれ、それから逃れることができない。
多くの人が、健康を損ねている原因は、自然と生きていないからだと気づき始めている。
昔は当たり前にあった自然とともにあるくらしを取り戻していきたい。
森をお手本にすることが、これからの時代にもっとも重要なことだと思う。

上利さんの自然体の話は実体験と五感から出ているお話で、わかりやすく説得力があった。
都会に森がないと嘆く前に、身近なところで森を作っていく。
微生物が住みやすい環境を作っていくことだとのお話に感銘を受けた。
それを聞きながら、もっと視野を広げてその対策を一緒に考える必要を感じた熱い時間となった。