【セミナーレポート2019】木暮人連続セミナー第6回:「スローウッドの勧め」

■ 木暮人セミナー2019 第6回
「スローウッドの勧め」

日時:2019年10月26日(土)13時30分開場、14時~17時
場所:デジタルハリウッド大学E12教室
登壇者:
髙部圭司(京都大学教授)

これまで様々なテーマで5回行ってきた本セミナーの第6回は、木のプロである京都大学農学研究科の高部圭司教授を迎えて行った。

高部教授は、全国の木暮人倶楽部会員と行った共同実験「月齢及び地域の木材特性への影響確認試験」や様々な木の特性を調べる研究等でお世話になってきた木の権威で、以前、三重県のある講演イベントで、私も御一緒させていただいたこともある。

そんな高部教授の話を久しぶりに木暮人倶楽部のイベントで披露していただけることになった。

3時間と長い講演時間であるために、まず第1部として、お集まりの方々が木の専門家だけではないことから「そもそも木とは?」で、基本的な木に対する知識を講義いただくことからスタート。

針葉樹と広葉樹の違いは、道管という組織の有りや無しやによることや顕微鏡写真とともに様々な樹種の道管の違いからくる木目の表情の違いのことも説明いただいた。

また、地球時計から見る1億6千万年前から生き続けてきた木の歴史、さらには現存する長寿の最高峰ブリッスルコーンパインが、なんと4845年という驚きの寿命であることなど、興味深い木の歴史の全体像も披露いただいた。

さらには、世界最古の木造建築である法隆寺五重塔の心柱の伐採時期が594年頃であるという事や1400年以上が経過している心柱のほとんどが、木材の真ん中、いわゆる赤身の心材であり、そのことにより1400年の長きにわたり塔が存在していることなど、生物として生きてきた木が、木材として2度、3度とまた活きる様を教えていただいた。

そんな木は、炭素鋼などと比しても軽くて強く、その材を使うことで、快適で健康的な居住空間を提供できる話を、マウスの床材の嗜好性試験結果から示していただき、スギの床、ヒノキの床とコンクリートの床のどちらにマウスがいるかの実験結果では、圧倒的にジッと休んでいる時にマウスはスギを選んでいるので、やはりスギは鎮静効果が高く、寝るときは杉の部屋がいいのだなと納得させてくれた。

また、木の香りなどからストレスを軽減したり、木が燃えることで容易に廃棄できると共にエネルギーを取り出せたり、腐ることで環境に負荷なく廃棄出来たり、変形することで湿度調整が行われるなどの、木は燃える、腐る、変形するという欠点に対しても、木の専門家の高部教授なりの解釈を伺い、「Wood is wonderful!」という言葉で、最初の第1部を締めくくった。

休憩をはさんだ第2部では、いよいよ本セミナーの本題「スローウッドの勧め」とタイトルされた講演に移った。

この「スローウッド」という概念は、ファーストフードに対抗してイタリアで提案された活動である「スローフード」運動(消えつつある郷土料理や質の高い小生産の食品を守る/質の高い素材を提供してくれる小生産者を守る/消費者全体に味の教育を進める)をモジって、高部教授がコンセプトされた木の再評価運動で、ある意味では長年の研究テーマの総集編とも言えるものだ。

そのスローウッドの特長の多くは、木材の乾燥法に由来する。木を伐採して葉っぱをつけたままで山に放置して乾燥させるやり方の「葉枯らし乾燥」とストックヤードで半年から2年ぐらいまでゆっくり風と太陽で「天然乾燥」された木材は、現在では主流の人工乾燥に比して、材色や香りの保持が長所となると指摘した。

古くから全国で行われてきた「葉枯らし乾燥」の歴史にも触れ、その効果を浜松の天竜杉や三重の美杉の調査例で示し、辺材部分に残される水分が徐々に抜けながら養分が消費されることで、カビにくくなり、木の良さを最大限に引き出すことが出来ると紹介した。

また、葉枯らし乾燥法の科学的知見を得る試験からは、材色や防カビ性の向上が見込めるということや木の香気成分の量とその構成比が変化することから良い香りがキープできるということも判明した。

人工乾燥と天然乾燥との比較では、天然乾燥材は酸素化ヘモグロビン濃度を脳の左右前頭前野で下げることが分かり、ストレスを無くす効果があることも分かったという。

これらのことから、髙部教授は「この世の中に『こだわりの木』があっても良いのではないか」と提案する。葉枯らし・天然乾燥されたこだわりの木は、無垢のままで、例えば床や壁などのように人が触れるところに用いると快適な居住空間が得られるのではないかと続けた。

そんな高部教授が掲げる「スローウッドの勧め」は、
• 郷土にある高品質の木材を守る
• 高品質の木材を提供してくれる生産者を守る
• 高品質の木材を生み出す山を守り、育てる
• 高品質の木材で家を建てる郷土の人を守る
• 消費者全体に「木の家のよさ」に関する教育を進める
• ゆっくり生産された木材(葉枯らし・天然乾燥された木材)を使う
• ゆっくり家を立て、ゆっくり入居する

であり、最後にご自分の研究室に敷かれたスギ無垢材のフローリング(当然スローウッドの)の心地よさを強調して講演を締めくくった。

実験と研究成果を駆使して、木の素晴らしさを伝えてくれた髙部教授のスローウッド論。現代社会が失いつつあることに警鐘を鳴らすものであると同時に、我々日本人が成長期から成熟期を迎えて、心の満足を求めていく時代に入ったこれからの日本の進む道を見せてくれているようにも感じた。

高部教授は2020年に退職されるということだが、これからも我々木暮人倶楽部とご縁をいただき、スローウッド社会に向けて一緒に活動出来たらありがたいと思っている。

(木暮人倶楽部 理事長 吉田就彦)

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