【セミナーレポート】 木暮人・森林と暮らしのセミナーレポート

【第一回】 森と木から考える健やかな暮らし、ストレッサーに負けない身体創り – 今井通子

2017年3月25日(土)
レポート:鄭美羅(チョンミラ)

一般社団法人木暮人倶楽部が主催する『木暮人・森林と暮らしのセミナー』シリーズの第一回目が2017年3月25日に始まった。同セミナーは、木の素晴らしさで暮らしをより健康で豊かにすることや日本の木の文化を伝える活動を続けている木暮人倶楽部の新企画として、2017年春から自然と身体、森林への移住、アレルギーと天然素材、木の精油など様々な分野のスピーカーを呼び、月一回開催される予定である。

人間環境の変化による問題

第一回目のスピーカーは医師兼登山家の今井通子(いまい みちこ)さん。今井さんは医師でありながら女性初のアルプス三大北壁登頂に成功した登山家でもあり、世界各国の山を巡りながら気付いた「人間環境」の問題やその対策を広めるなど様々な活動をしている。
今回のセミナーのテーマは「森と木から考える健やかな暮らし、ストレッサーに負けない身体創り」。今井さんは、我々現代人が直面している様々な健康問題の根本的な要因として環境の変化に注目する。その環境というのは、大気汚染や環境汚染の問題だけでなく、私達が生活している空間、毎日使う日用品、毎日食べる食べ物など、生きるために欠かせない衣食住を含めた全ての生活環境を意味する。それを人間環境と呼んでいる。
人間環境という言葉は、1972年国連人間環境会議の「人間環境宣言」で使われ始めた。同宣言は、人が環境の形成者であることと共に、人工の害の増大を明記している。その害とは、環境汚染の他にも「生活環境、労働環境における人間の肉体的、精神的、社会的健康に害をもたらす」全てを示している。

溢れる化学物質と健康障害

都市化が進んで、より便利になっている世の中だが、私達は化学物質に囲まれて生きていると言っても過言ではない。環境ホルモンとは、環境中に存在して、生体にホルモン作用を起こしたり、逆にホルモン作用を阻害する内分泌攪乱作用を持つ化学物質のことを言う。住宅の建材・塗料、残留農薬、洗剤、加工食品の化学合成物質(食品添加物)、プラスチック製の容器など、私達は日常の中で意識もせずに様々な化学物質に接している。
このような化学物質が体内に蓄積され、うまく分解・排出できないと健康障害を起こす原因となる。胎児への影響はもちろん、精子の減少など健康な子供を産めない身体になり、その影響は今の私達だけでなく次世代にもつながっていく。普段アレルギーと思われがちだが、アレルギーと化学物質過敏症の違いを知るのも大事な気づきの始まりである。
しかし、人の身体も化学物質の一つであり、様々なものを消費しながら生きている中で化学物質にまったく触れない生活は難しい時代になっている。だからこそ、その問題と原因を認識し、自分の身体を知り、自分が置かれている環境での健康管理とは何かを意識して実践する必要がある。
「健康管理とは、ストレスに強い身体を作ること」だと、今井さんは語る。その一つの対策案として提案するのが、安易な加工食品を避けて、せめて食材から自分で料理すること。また、いつも同じ食材や同じ地域のものを使うと同じ物質が体内に蓄積されやすいため、できれば違う地域の違う食材を使うこともすすめている。

人間環境活動の中で森林と人をつなげる

今井さんの講演は、このような日常生活の改善から、「森林の癒し効果に関する科学的実証調査」などの森林医学の確立、森林セラピー研究の事、文部科学省の「木の学校づくり-木造3階建て校舎の手引-」、「森と木と子どもをつなげる実行委員会」などの活動等森林・自然との触れ合いまで多岐にわたった。研究によると、森の色を見るのと匂いを嗅ぐのにはそれぞれ違う神経物質が作用し、プラス効果が増強すると言う。
今井さんはその全ての活動を「人間環境活動」と呼ぶ。人間環境の中で環境の変化が人の身体に与える影響を考えることで、森林・自然を観光資源だけのような扱いではなく、森林・自然の本当の使い方を取り戻すことができると言う。だから、環境問題のテーマは「‘地球にやさしい’ではなく、‘人間の環境をよくする’こと」に焦点を置くべきだと、今井さんは語る。
今回のセミナーでは、現代の様々な問題が結局「人間環境」に関わっているという新たな認識から、環境問題を自然の破壊という狭い意味ではなく、視野を広げて人間の問題と捉え、根本的な要因の解説とそれに対する対策として、森の力が有効であるという主張で、森のことを改めて考えるきっかけになる時間だった。