【セミナーレポート2019】木暮人連続セミナー第5回:「NPO法人もりずむの活動~林業事業を生き抜く」

■ 木暮人セミナー2019 第5回
「NPO法人もりずむの活動~林業事業を生き抜く」

日時:2019年9月21日(土)13時30分開場、14時~17時
場所:木暮人倶楽部セミナールーム(東京都中央区銀座7-4-12銀座メディカルビル9階)
登壇者:
藤崎昇さん(NPO法人もりずむ 代表理事)

藤崎昇さん(NPO法人もりずむ 代表理事)

「森林へGO!!森と共に豊かになりSDGs目標を達成するヒント」を副題とした本セミナーの第5回は、林業の様々な可能性を三重県で追求しているNPO法人もりずむの代表、藤崎昇さんを迎えて行った。藤崎さんは、首都圏で土木系のコンサル会社に勤務した後、思うところあり、いわばIターン的に都会から地方の林業に関わったという経歴の持ち主だ。
まず始めた三重県の森林組合では、なんでも新しいことに挑戦してもよいと言われたことから、様々な新しい事業に挑戦、その後、ビジネスモデルが高コスト体質の森林組合では実現不可能と考え、一念発起して、仲間たちとNPO法人を立ち上げ、その立ち上げた事業も引き継いだという。

もりずむの事業は、最近の社会情勢の中で起こっている様々な課題に裏付けられている。例えば、家造りに化学物質が氾濫して、化学物質過敏症やシックハウス症候群などのアレルギーで苦しむ人が増えていることや社会的ストレスの増大により心身のゆとりを喪失して、疾患や引きこもり、ニートなどが増えていることなど。心身を癒し、リフレッシュできる空間が求められる現状は、人々の暮らしと森との繋がりが薄くなってきたことにその原因があると指摘する。

さらに、水源地と安全な水の確保に加え、バイオマスやCO₂の固定化で低炭素社会に森が貢献していること、その森が育むことが報告されている海洋水産資源への影響など、その森を支える健全な林業が社会全体に果たす役割が多くあると続ける。

そんな中で2012年12月に法人を設立し、現在正会員が25名いるもりずむの使命は、自らが『食っていける、儲かる林業』を確立し、森林と中山間地域を元気にすること。暮らしと森を繫げて、心身ともに健康な暮らし作りに貢献すると定めて活動しているという。

具体的な事業としては、スローウッド「もりずむの木」とブランディングした伝統的林業(月齢伐採+葉枯らし乾燥)により付加価値を高めた100%天然乾燥木材の販売をメインにして、それにより木材価格を適正化することを挙げている。100%天然乾燥木材は、耐久性や粘り強さがあり、香りや色艶が素晴らしいことからセラピー効果もその特長だという。

また、暮らしと森を繫げるために、癒しやリフレッシュなどセラピー効果抜群の森林空間を提供する木こり体験ツアーや「プレーパーク」等の森林空間の有効利用事業も行っている。

子供達の冒険ランド「プレーパーク」は、子供達が、生きる力、創造性、優しさを育む場として「自分の責任で自由に遊ぶ」ことを応援。津市美里町の市有林「美里水源の森」(8ha)にて、美里町民、津市、三重県、セブン-イレブン記念財団、TOTOともりずむが協同で 2013年度から企画、整備をしている。活動実績としては、植樹、草刈り、階段、ベンチ、東屋などの手作りワークショップを毎年3回開催(毎回90名程度参加)。今後も、参加型のビオトープ、ツリーハウスなどのワークショップを進めながら事業展開を図っていきたいと考えている。

他にも、薪プロジェクト・木工品の製造販売による端材・不用木の活用による収入源の複合化を行うと同時に、暮らしの中に広く森を普及させる活動もしている。

山林で発生する間伐不用木等を有効利用して、「薪」を製造・販売する狙いは、零細山林所有者の応援(山の手入れを経済的に支援)、収入源の複合化による林業の再生、CO₂排出の抑制、地球温暖化防止に貢献するためだ。

山林所有者から原木を買取り、「白山林業研究会」(会員50名)と連携して「木の駅白山」も創設した。そこで、地域通貨券『白山もり券』を発行(現在、白山町内4店舗と提携)、原木買取りの際に「地域通貨券」を発行するのは、地域商店が潤う流れを作るためで、地域経済の地域循環が促進されて、森と林業、地域商店が共に元気になる仕組みだ。実績としては、2014年から19回開催して、122名の参加、集材積435m³、通貨券発行額160万円だという。

木工品販売では、まな板、コースター、丸太スツール、オカリナなどの製造販売を行い、地域のホテルや道の駅など5カ所に卸販売しており、木の温もりや優しさを体感してもらう導入ツールとしても重要視している。

ユニークな取り組みとしては、獣害対策の切り札になるか!と行っている鹿追犬プロジェクトで、人間と野生動物との棲み分けの復活を提唱。犬による鹿の追い払いにより、野生動物の生息エリアを里山(人間の活動エリア)から奥山地域(野生生物の本来の生息エリア)へ戻す試みだ。人間や家畜、ペットへの危害を加えないように訓練した犬を使って、ドッグナビ(GPS)を装着して位置確認を行いながら1日1回ペースでパトロールを実施、視覚あるいは犬の嗅覚頼りに鹿を追い払い、捕獲する。もりずむでは、獣害被害を受けずに無事に米作りができるか、今年、田んぼ1haで電柵無しでの米作りに挑戦中である。

ただ、これらの事業には課題も多いとのこと。一番の課題として藤崎さんが挙げたのは事業規模の拡大で、現状の売り上げではなかなか追加投資もできないためである。現在、「もりずむの木」事業を中心として常勤スタッフは1名。「もりずむのマキ」は、事業規模がまだ不十分なため、安定した雇用が維持できていない。「プレーパーク」は、子供達に冒険ランドとして開放するために、最低限の園内整備、監視のスタッフが必要で、その人件費の確保が大きな課題だという。それらの事業に、助成金、公的資金、民間融資の導入を図って、課題を解決したいと考えているという。

最後に、少々古い話題ですがと前置きして、連続テレビ小説「マッサン」の話をした藤崎さん。ウィスキーの10年ものは、品質に自信があり需要は必ずあるという確信があるからリスクを負ってでも事業化できたと。我々も「ホンモノの林業」で勝負し、その再生を図りたいと〆めた。

藤崎さんの講演の後に、第2部として、私が、もりずむで行っている事業がSDGsの17の目標の何番に貢献するかを指摘し、会場の皆さんと林業のこれからについて議論した。藤崎さんが林業の道に入った理由もまさにSDGsの中に設定されているということで、先日、林業コンテストの近畿大会で優勝し、来年、全国大会に出場するもりずむの挑戦が、今後増々飛躍していくことを期待したい。

 

(木暮人倶楽部 理事長 吉田就彦)